いまさら聞けないハイフローセラピーの基本|第4回:どんな患者に使える?

いまさら聞けないハイフローセラピーの基本|第4回:どんな患者に使える?

ハイフローセラピーの適応と臨床応用


はじめに|「誰に使えるか」を知ることの大切さ

ハイフローセラピー(HFT)は、快適で効果的な呼吸サポートとして広まりつつある治療法です。
しかし、すべての患者に使えるわけではなく、「どんな状態なら使えるか」、「どこで見極めるべきか」を理解することがとても重要です。

この記事では、初心者にもわかりやすく、HFNCの適応・禁忌・見極めのポイントについて紹介します。


✅ HFTが有効とされる主なケース

病態・疾患なぜHFTが有効か
急性低酸素性呼吸不全高流量酸素+PEEP効果で酸素化改善が期待できる
肺炎(細菌性・ウイルス性)酸素化が低下しやすいが、呼吸努力は保たれており、酸素供給+PEEP効果が期待できる
急性間質性肺炎酸素化障害が中心だが非侵襲的にサポートできる
心不全(肺水腫 軽度〜中等度)呼吸困難緩和、肺胞虚脱の防止に有効
細気管支炎(特に小児)マスクを嫌がる小児にも装着しやすく、加温加湿の効果も大きい
慢性呼吸不全(COPD、間質性肺疾患)吸気補助や痰の排出がスムーズになりやすい
NPPVに不耐の患者会話や飲水が可能で、マスクが苦手な患者に適している

📘 コラム:急性低酸素性呼吸不全って?

海外の文献では、 HFTの使用対象として
「急性低酸素性呼吸不全(acute hypoxemic respiratory failure ; AHRF)」という言葉がよく出てきます。

これは、
「十分な呼吸努力にもかかわらず、酸素化が悪化している」
ような状態を指します。

たとえば、肺炎などにより努力呼吸が見られ呼吸数が多いし、SpO₂が下がっている状態などがこれに当たります。
呼吸筋の動きが良くても、肺の中では酸素をうまく取り込みきれていないという状況です。
✅ つまり、「CO₂が高い=換気障害」が主体のケース(COPDなど)とは区別される病態です

👉 日本ではまだこの表現は一般的ではありませんが、文献を読むときにはぜひ知っておきたい言葉です。


❗ HFTの禁忌・慎重投与が必要なケース

状況・病態なぜ注意が必要か
CO₂ナルコーシス(高CO₂血症)HFTでは換気を十分サポートできず、CO₂がさらに蓄積する可能性あり
著しい呼吸筋疲労/無呼吸傾向自発呼吸がほぼ消失している場合は、HFTでは対応困難
上気道閉塞気道が塞がれていると酸素が届かず、効果を発揮できない
鼻出血・鼻の外傷など鼻カニューレの使用自体が困難またはリスクあり
蘇生・緊急挿管が必要な状況HFTでは間に合わないため、迅速な気道確保が優先される

👨‍⚕️ 具体的なイメージ(例)

✔️ 典型例:

  • 肺炎や間質性肺炎の患者で、
    • 呼吸数:28回/分と早い
    • SpO₂:89%(酸素化が悪い)
    • 呼吸時の胸郭の動き:努力あり(呼吸努力は残っている)

➡︎ こうした状態では「息はしているが、酸素が足りない」=HFTが有効です。

HFTは、「十分な呼吸努力があるにもかかわらず酸素化が悪化している」ような急性呼吸不全の患者に特に有効です。

❌ 一方でHFTが向かないケース:

  • 呼吸努力が極端に少ない(意識レベル低下、CO₂ナルコーシス)
  • 無呼吸や浅すぎる呼吸(=呼吸努力“消失”)

➡︎ この場合はHFTではサポートしきれず、NPPVや挿管が必要です。


🔍HFTを「継続していいか」の判断ポイント

HFT導入後は、効果が出ているかを早めに見極めることが重要です。
観察で“今どうなっているか”を感じ取ることが大切です。


🧩 大事な見極めの3大ポイント

観察ポイントどこを見ればいい?なぜ大切?
呼吸パターンの変化肩で息をしていないか?胸の動きはスムーズか呼吸が落ち着いてきていれば、HFTが効いてきているサイン
会話や飲水ができるか質問に答えられる?会話はスムーズ?水を飲めている?「ラクになったか」が直感的にわかる、一番身近なサイン
努力呼吸の有無鼻翼呼吸首の筋肉が過剰に使われていないか?続いている場合は、HFTだけでは不十分な可能性がある

鼻翼呼吸(びよくこきゅう)とは、呼吸が苦しいときに、鼻の両側(鼻翼)が大きく広がったり動いたりする呼吸のことです。
小児や呼吸困難のある患者によく見られ、
「努力呼吸(息をがんばって吸おうとしている状態)」のサイン
として重要です。

鼻のふくらみが目立つ「鼻翼呼吸」は、呼吸が苦しいときのサインです。

図 正常呼吸と努力呼吸の比較

HFTが適正かを判断する指標;ROX Index

HFTは装着すれば安心…ではありません。
“効果が出ているかどうか”を短時間で評価し、必要に応じて治療方針を見直すことがとても重要です。

その際に役立つのが、ROX Index(ロックス・インデックス)です。


📏 ROX Indexとは?

この指数は、酸素化(SpO₂ / FIO₂)と呼吸数のバランスを見て、呼吸状態の改善度を評価するツールです。

✅ 目安と臨床的意義

  • ROX Index ≥ 4.88(4〜6時間後)
         → HFT継続が可能な見通し
  • ROX Index < 3.85(特に3時間以内)
         → 早期にNPPVや挿管への切り替え検討が必要

呼吸数だけでは見えにくい「呼吸の質」の変化を、ROX Indexで数値化できます。

ROX Indexは、HFTが効いているかどうかを“見える化”する指標です。
呼吸の観察と併せて活用することで、適切なタイミングで治療を切り替える判断材料になります。

📚 実際の計算例:

SpO₂ = 93%、FIO₂ = 0.50、呼吸数 = 28回/分
→ ROX = (93 / 0.50) ÷ 28 ≒ 6.64(比較的安定)


💡 現場でのポイント

  • HFTを導入したら、30分〜1時間ごとに観察と評価
  • ROX Indexとあわせて、SpO₂、呼吸数、努力呼吸の有無、意識レベルの変化も確認
  • 「息はラクそうか?」「会話スムーズか?」「呼吸数は下がってきたか?」など、主観+客観の両面で評価

✨ 組み合わせて評価しよう

数値だけでなく、「患者さんの様子をどう見て感じるか」も大切です。
呼吸が静かになっている・スムーズに話せるようになってきた・顔色がよくなってきた…
そんな“ちょっとした変化”の中に、HFTが効いているサインが隠れています。

まとめ

  • HFTは「呼吸努力が見られ、酸素化が低下している」患者に最も有効
  • 使える患者・使えない患者を疾患や状態で見極めることが第一歩
  • 導入後は観察+ROX Indexで効果を判断し、必要に応じて方針を調整

患者さんの“息づかい”を感じながら、HFTの力を最大限に活かしていきましょう。


📚 参考文献

  1. 日本呼吸器学会 編. 酸素療法マニュアル 第3版. 南江堂, 2021.
  2. 小林 聡ほか. 高流量鼻カニューレ(HFNC)酸素療法. 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌. 2015;25(1):80–85.
  3. Frat JP, et al. High-flow oxygen through nasal cannula in acute hypoxemic respiratory failure. N Engl J Med. 2015;372(23):2185–2196.
  4. Rittayamai N, et al. Use of high-flow nasal cannula oxygen therapy in critically ill patients: A review. Chest. 2015;148(1):253–263.
  5. 野口裕幸. 酸素療法の基礎からハイフローまで. 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌. 2022;32(3):288–292.  https://doi.org/10.15032/jsrcr.32.288

関連記事

  1. 酸素療法とは
  2. 第1回ハイフローセラピーの呼称・背景・普及の理由
  3. 第2回;従来の酸素療法との違い ― ハイフローセラピーの優位性とは?
  4. 第3回:ハイフローセラピーの生理学的効果
  5. 第5回(前編):ハイフローセラピーに必要な機器とその準備
  6. 第5回(後編):HFT専用装置とタイプ別の使い分け

ハイフローセラピーの適応と臨床応用


はじめに|「誰に使えるか」を知ることの大切さ

ハイフローセラピー(HFT)は、快適で効果的な呼吸サポートとして広まりつつある治療法です。
しかし、すべての患者に使えるわけではなく、「どんな状態なら使えるか」、「どこで見極めるべきか」を理解することがとても重要です。

この記事では、初心者にもわかりやすく、HFNCの適応・禁忌・見極めのポイントについて紹介します。


✅ HFTが有効とされる主なケース

病態・疾患なぜHFTが有効か
急性低酸素性呼吸不全高流量酸素+PEEP効果で酸素化改善が期待できる
肺炎(細菌性・ウイルス性)酸素化が低下しやすいが、呼吸努力は保たれており、酸素供給+PEEP効果が期待できる
急性間質性肺炎酸素化障害が中心だが非侵襲的にサポートできる
心不全(肺水腫 軽度〜中等度)呼吸困難緩和、肺胞虚脱の防止に有効
細気管支炎(特に小児)マスクを嫌がる小児にも装着しやすく、加温加湿の効果も大きい
慢性呼吸不全(COPD、間質性肺疾患)吸気補助や痰の排出がスムーズになりやすい
NPPVに不耐の患者会話や飲水が可能で、マスクが苦手な患者に適している

📘 コラム:急性低酸素性呼吸不全って?

海外の文献では、 HFTの使用対象として
「急性低酸素性呼吸不全(acute hypoxemic respiratory failure ; AHRF)」という言葉がよく出てきます。

これは、
「十分な呼吸努力にもかかわらず、酸素化が悪化している」
ような状態を指します。

たとえば、肺炎などにより努力呼吸が見られ呼吸数が多いし、SpO₂が下がっている状態などがこれに当たります。
呼吸筋の動きが良くても、肺の中では酸素をうまく取り込みきれていないという状況です。
✅ つまり、「CO₂が高い=換気障害」が主体のケース(COPDなど)とは区別される病態です

👉 日本ではまだこの表現は一般的ではありませんが、文献を読むときにはぜひ知っておきたい言葉です。


❗ HFTの禁忌・慎重投与が必要なケース

状況・病態なぜ注意が必要か
CO₂ナルコーシス(高CO₂血症)HFTでは換気を十分サポートできず、CO₂がさらに蓄積する可能性あり
著しい呼吸筋疲労/無呼吸傾向自発呼吸がほぼ消失している場合は、HFTでは対応困難
上気道閉塞気道が塞がれていると酸素が届かず、効果を発揮できない
鼻出血・鼻の外傷など鼻カニューレの使用自体が困難またはリスクあり
蘇生・緊急挿管が必要な状況HFTでは間に合わないため、迅速な気道確保が優先される

👨‍⚕️ 具体的なイメージ(例)

✔️ 典型例:

  • 肺炎や間質性肺炎の患者で、
    • 呼吸数:28回/分と早い
    • SpO₂:89%(酸素化が悪い)
    • 呼吸時の胸郭の動き:努力あり(呼吸努力は残っている)

➡︎ こうした状態では「息はしているが、酸素が足りない」=HFTが有効です。

HFTは、「十分な呼吸努力があるにもかかわらず酸素化が悪化している」ような急性呼吸不全の患者に特に有効です。

❌ 一方でHFTが向かないケース:

  • 呼吸努力が極端に少ない(意識レベル低下、CO₂ナルコーシス)
  • 無呼吸や浅すぎる呼吸(=呼吸努力“消失”)

➡︎ この場合はHFTではサポートしきれず、NPPVや挿管が必要です。


🔍HFTを「継続していいか」の判断ポイント

HFT導入後は、効果が出ているかを早めに見極めることが重要です。
観察で“今どうなっているか”を感じ取ることが大切です。


🧩 大事な見極めの3大ポイント

観察ポイントどこを見ればいい?なぜ大切?
呼吸パターンの変化肩で息をしていないか?胸の動きはスムーズか呼吸が落ち着いてきていれば、HFTが効いてきているサイン
会話や飲水ができるか質問に答えられる?会話はスムーズ?水を飲めている?「ラクになったか」が直感的にわかる、一番身近なサイン
努力呼吸の有無鼻翼呼吸首の筋肉が過剰に使われていないか?続いている場合は、HFTだけでは不十分な可能性がある

鼻翼呼吸(びよくこきゅう)とは、呼吸が苦しいときに、鼻の両側(鼻翼)が大きく広がったり動いたりする呼吸のことです。
小児や呼吸困難のある患者によく見られ、
「努力呼吸(息をがんばって吸おうとしている状態)」のサイン
として重要です。

鼻のふくらみが目立つ「鼻翼呼吸」は、呼吸が苦しいときのサインです。

図 正常呼吸と努力呼吸の比較

HFTが適正かを判断する指標;ROX Index

HFTは装着すれば安心…ではありません。
“効果が出ているかどうか”を短時間で評価し、必要に応じて治療方針を見直すことがとても重要です。

その際に役立つのが、ROX Index(ロックス・インデックス)です。


📏 ROX Indexとは?

この指数は、酸素化(SpO₂ / FIO₂)と呼吸数のバランスを見て、呼吸状態の改善度を評価するツールです。

✅ 目安と臨床的意義

  • ROX Index ≥ 4.88(4〜6時間後)
         → HFT継続が可能な見通し
  • ROX Index < 3.85(特に3時間以内)
         → 早期にNPPVや挿管への切り替え検討が必要

呼吸数だけでは見えにくい「呼吸の質」の変化を、ROX Indexで数値化できます。

ROX Indexは、HFTが効いているかどうかを“見える化”する指標です。
呼吸の観察と併せて活用することで、適切なタイミングで治療を切り替える判断材料になります。

📚 実際の計算例:

SpO₂ = 93%、FIO₂ = 0.50、呼吸数 = 28回/分
→ ROX = (93 / 0.50) ÷ 28 ≒ 6.64(比較的安定)


💡 現場でのポイント

  • HFTを導入したら、30分〜1時間ごとに観察と評価
  • ROX Indexとあわせて、SpO₂、呼吸数、努力呼吸の有無、意識レベルの変化も確認
  • 「息はラクそうか?」「会話スムーズか?」「呼吸数は下がってきたか?」など、主観+客観の両面で評価

✨ 組み合わせて評価しよう

数値だけでなく、「患者さんの様子をどう見て感じるか」も大切です。
呼吸が静かになっている・スムーズに話せるようになってきた・顔色がよくなってきた…
そんな“ちょっとした変化”の中に、HFTが効いているサインが隠れています。

まとめ

  • HFTは「呼吸努力が見られ、酸素化が低下している」患者に最も有効
  • 使える患者・使えない患者を疾患や状態で見極めることが第一歩
  • 導入後は観察+ROX Indexで効果を判断し、必要に応じて方針を調整

患者さんの“息づかい”を感じながら、HFTの力を最大限に活かしていきましょう。


📚 参考文献

  1. 日本呼吸器学会 編. 酸素療法マニュアル 第3版. 南江堂, 2021.
  2. 小林 聡ほか. 高流量鼻カニューレ(HFNC)酸素療法. 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌. 2015;25(1):80–85.
  3. Frat JP, et al. High-flow oxygen through nasal cannula in acute hypoxemic respiratory failure. N Engl J Med. 2015;372(23):2185–2196.
  4. Rittayamai N, et al. Use of high-flow nasal cannula oxygen therapy in critically ill patients: A review. Chest. 2015;148(1):253–263.
  5. 野口裕幸. 酸素療法の基礎からハイフローまで. 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌. 2022;32(3):288–292.  https://doi.org/10.15032/jsrcr.32.288

関連記事

  1. 酸素療法とは
  2. 第1回ハイフローセラピーの呼称・背景・普及の理由
  3. 第2回;従来の酸素療法との違い ― ハイフローセラピーの優位性とは?
  4. 第3回:ハイフローセラピーの生理学的効果
  5. 第5回(前編):ハイフローセラピーに必要な機器とその準備
  6. 第5回(後編):HFT専用装置とタイプ別の使い分け