第1章-3:酸素の旅 ― 酸素消費と循環

【はじめに】

酸素は肺で血液に取り込まれ、心臓のポンプ作用によって全身へと運ばれます。最終目的地は、全身の細胞。そこでは、酸素がエネルギー代謝に使われ、二酸化炭素が生成されます。この章では、「酸素はどれだけ使われるのか」「どのように循環によって運ばれるのか」など、酸素消費と循環について見ていきましょう。


1. 酸素消費量(VO₂)とは?

VO₂(酸素消費量)とは、単位時間あたりに体内で消費される酸素の量を指します。通常、安静時のVO₂は以下のように言われています:

・成人:およそ 3.5 mL/kg/min(体重1kgあたり)
・標準体重60kgの成人では、約 210 mL/min

この酸素は、細胞が栄養素(主に糖や脂肪)をエネルギーに変えるために使われます。その際に二酸化炭素(CO₂)と水(H₂O)が生成されます。

2. 酸素はどうやって届けられる?DO₂(酸素供給量)

酸素消費があるということは、当然ながらその酸素を届ける必要があります。そこで重要なのが DO₂(酸素供給量) です。DO₂とは、「心臓が送り出す血液の中に、どれだけの酸素が含まれているか」を示します。

DO₂の式:
DO₂ = 心拍出量(CO) × 酸素含量(CaO₂)
単位:mL/min

CaO₂(動脈血酸素含量)の計算式は、前章でも出てきた通り:

CaO₂ = 1.34 × Hb × SaO₂(%)/100 + 0.003 × PaO₂(Torr)

例えば:
・Hb = 15 g/dL
・SaO₂ = 98%
・PaO₂ = 100 Torr
とすると、

CaO₂ ≒ 1.34 × 15 × 0.98 + 0.003 × 100 = 約 19.7 mL/dL

心拍出量(CO)を 5 L/min(=5000 mL/min)とすれば、

DO₂ ≒ 5000 × 19.7 / 100 = 約 985 mL/min

3. 酸素消費と供給のバランス ― Fickの法則

Fick(フィック)の法則は、酸素の消費量(VO₂)を以下の式で表す考え方です:

VO₂ = CO × (CaO₂ − CvO₂)
※CvO₂は混合静脈血酸素含量

この式から、「心拍出量が減るとVO₂が減る」「静脈血中に残っている酸素が多い=組織が酸素を使っていない」といった情報を読み取ることができます。

4. 酸素の利用率(O₂ extraction ratio)

O₂ extraction ratio(O₂ER)は、DO₂に対してどのくらいの酸素が実際に使われたかを示す指標です。

O₂ER = VO₂ / DO₂

一般的に、正常なO₂ERは 25〜30% 程度です。これは、動脈から送られた酸素のうち、約1/4が使われて残りが静脈血に戻っていることを意味します。

【まとめ】

酸素はただ運ばれているだけではなく、組織で「消費」されて初めて意味を持ちます。
VO₂やDO₂、Fickの法則、O₂ERといった指標を通じて、酸素の「運搬」から「利用」までの流れを定量的に把握することができます。これは、呼吸管理だけでなく循環動態や代謝評価にも重要な視点です。


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