酸素療法について

あなたは、あなた自身、あるいはご家族が、「治療に酸素が必要です。」「酸素を使う理由は、酸素が足りないからです。」「酸素をお家でも使うことで、日常生活のQOL(生活の質)が改善します。」などの説明を受けて、心配になってこのページを見つけたのだと思います。
このページでは、そもそも酸素療法とは何か、なぜ酸素が必要なのか、酸素を使うことでどのようになるか、どこで酸素を使うのか、ということについて簡単にわかりやすくご説明したいと思います。

このページの内容

  1. 1.酸素の役割と私たちの体
  2. 2.酸素療法とは?(適応)
  3. 3.酸素療法が使われる2つの場面(急性期と慢性期)
  4. 4.HOTへの橋渡し

1.酸素の役割と私たちの体

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酸素は無色透明、無味無臭です。 酸素を吸っても特に何も匂わず、味も感じません。

「私たちの体は酸素を燃やして動く、大きな発電所のようなものです。」 酸素を取り込むことで、生命活動に必要なエネルギー(熱や力)を作り出しています。食事でとった栄養を「燃やす」ときに酸素が使われ、その結果として熱や筋肉の動きのエネルギーが生まれます。もちろん、実際に電気を作り出しているわけではなく、細胞レベルで熱や活動に必要な生命のエネルギーを生み出している、という意味です。

酸素が足りないと、発電量が減ってしまいます。 エネルギーが枯渇し、力強い活動持続的な活動ができなくなります。特に心臓や脳などの、休まず働く重要な臓器に大きな負担がかかります。

私たちが吸っている空気は約21%が酸素です。 体はその全てを使い切るわけではなく、息を吐くときの空気(呼気)には約16〜18%程度の酸素が残っています。酸素療法は、この21%よりも濃い酸素を補給することで、体の「発電不足」を助ける治療です。

🌟 酸素が足りているかを知る「目安の数値」

医師が酸素療法を必要だと判断する際、重要な目安となるのが「血液中の酸素の量」です。

これは、パルスオキシメータで測るSpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)という数値で確認できます。SpO2が常に低い状態にあると、体は酸素不足となり、様々な負担がかかり続けます。

詳しい数値の見方や測り方については、パルスオキシメータについての記事をご覧ください。

2.酸素療法とは?(適応)

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酸素療法とは、血液中の酸素濃度が不足しているときに、通常の空気(酸素濃度約21%)よりも濃度の高い酸素を補給することで、体の負担を軽くする治療法です。

テレビドラマなどでよく見る、口(マスク)から酸素が投与されるシーンから、酸素投与は特別な治療だと感じるかもしれません。 では、どのような病態や状況で酸素療法が必要になるのでしょうか。

🩺 酸素療法が必要になる主なケース

酸素療法が必要となるのは、大きく分けて「肺の機能が一時的に落ちている時」「酸素を全身に送る力が足りない時」があります。

1)肺の機能が一時的に低下している時(急性期)

  • 喘息発作時や、インフルエンザ・COVID-19(新型コロナウイルス)による肺炎などの急性の呼吸器の病気のとき。
  • 手術後の傷の回復など、体に大きな負担がかかり、一時的に酸素を一番必要とする間。

2)酸素を全身に送る力が足りない時(循環器系)

  • 心筋梗塞などの心不全時も、酸素を全身に送るポンプの力(心臓の力)が足りていないため、不足分を補うために酸素が投与されることがあります。

3)肺の機能が慢性的に低下している時(慢性期)

  • 慢性閉塞性肺疾患(COPD)肺結核の後遺症間質性肺炎などの慢性の呼吸器疾患があるとき。
  • この場合、肺の中で酸素を十分に取り入れることができず、血液に酸素が受け渡される量が少ないために、継続的に酸素を追加する必要があります。

📌 酸素が必要な目安

慢性の呼吸器疾患などでは、パルスオキシメータで測る血液中の酸素濃度がおおむね90%前後より低い状態が続く場合などが、医師が酸素療法(HOT)を検討する目安の一つとされています。(もちろん、医師の総合的な判断が必要です。)

3.酸素療法が使われる2つの場面(急性期と慢性期)

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1)身近な場面:病気ではない一時的なサポート

酸素を補給する場面は、実は病院だけではありません。

例えば、富士山のような標高の高い山に登ったとき、頂上で酸素スプレーを吸っている人をテレビなどで見たことがあるかもしれません。これは、高い場所は空気が薄く、一時的に体が酸素不足に陥るのを防ぐためです。

また、街中で行われるマンホールの工事現場などでも、作業員が酸素ボンベや、安全な空気を送る装置を設置しているのを見かけることがあります。これは、地下の閉鎖された空間(密閉空間)では、酸欠や有毒ガスの発生といった命に関わる危険があるため、作業の安全を確保するための装備です。

このように、酸素療法とは、病気の有無にかかわらず、環境によって酸素不足になったときに、不足分を補うという、身近で大切な「命を守るサポート」なのです。

2)病院での一時的な治療(急性期)

医療機関で酸素療法が行われる場面の多くは、病状が回復するまでの一時的な期間です。

例えば、肺炎や喘息発作などで肺の機能が一時的に低下しているとき、体が酸素を大量に必要とします。酸素療法は、この炎症や病状が落ち着き、「病巣が鎮火するまで」、心臓や脳などの重要な臓器の負担を軽くするために投与されます。

病状の改善が進めば、肺や体の機能は元に戻るため、医師の判断のもとで酸素投与は徐々に減らされ、最終的には終了となります。酸素療法は、体が自力で回復するまでの間、「火が消えるまで」支える一時的なサポート役なのです。

3)自宅へ繋がる長期的な治療(慢性期・HOT)

酸素療法が長期にわたる在宅治療となるのは、肺や心臓の機能低下が、もはや一時的なものではなく、元に戻らない慢性的なダメージとなっている場合です。

3)ー1. なぜ酸素が慢性的に不足するのか?(原因とメカニズム)

  • 主な原因:タバコ(喫煙)慢性閉塞性肺疾患(COPD)の最大の危険因子です。過去の喫煙歴や、受動喫煙が原因となっていることが多くあります。
  • その他のリスク: 粉塵(ふんじん)が多い工場や工事現場など、劣悪な環境で働いていた経歴も、肺に大きな負担をかけるハイリスクな要因となります。
  • 体の変化: 肺は空気中の外敵(異物や刺激)と戦い続けているため、ダメージが蓄積します。そして、一度壊れてしまった肺の細胞は、残念ながらもう元に戻ることはありません。この不可逆的なダメージこそが、酸素を継続的に補給し続ける必要がある理由です。

3)ー2.病院で行う在宅へのトレーニング

  • 自宅で安全に生活を続けるためには、準備が必要です。慢性期では、酸素投与を続けながら、リハビリテーションを行います。
  • 特に重要なのは、食事、排泄、入浴など、日常の動作の中で息切れを起こさないよう、酸素量を調整しながら生活を送るための訓練です。

4).HOTの目的:生活の質(QOL)の維持と寿命

HOTの目的は、単に延命だけではありません。 酸素を吸い続けることで寿命が延びるというデータはもちろんありますが、最も重要なのは、生活を続けることです。

HOT には「寿命を延ばす」というデータもありますが、いちばん大切なのは 生活を続けられるようにすること です。
食事や散歩、外来受診など「自分らしい日常」を安全に続けるための治療であり、国内外の研究結果にもとづき、医師が必要と判断した方に行われます。

4.HOTへの橋渡し:あなたの生活を守るために

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1)HOTとは「生活を取り戻す」治療

HOT(在宅酸素療法)とは、自宅で普通の生活を送りながら酸素を吸入する治療です。

これは単に「病院の治療を自宅に持ち帰る」ことではありません。酸素の力を借りて、あなたの「自立した日常生活」を安全に維持するためのものです。

私たちが指す日常生活とは、睡眠、食事、料理、入浴といった家の活動から、買い物や散歩、そして排泄といった基本的な動作まで、すべてを含みます。HOTは、これらの動作を安全に、そして息切れを最小限に抑えて行えるよう、体をサポートします。

2)息切れは「リスクのサイン」です

息切れは、体が酸素不足を訴えているサインです。

「時々息苦しい」というのが1日に何度もある、あるいはそれが続いているという状態に加え、「寝ている間に苦しさで目覚める」「朝起きた時に頭が重い、だるい」という状態は、体が酸素不足に陥っているというリスクのサインです。

息切れを「年のせい」と片付けず、早めに呼吸器内科や専門の外来を受診し、医師に相談することが、今後の生活の質(QOL)を守るための第一歩となります。

3)次のステップへ

HOTをご自宅で安全に、そして快適に続けるためには、いくつか知っておくべき知識と生活の工夫があります。

火災予防、入浴や外出のコツ、必要な支援制度といった具体的な対処法は、次の記事「在宅での酸素療法(HOT)の基礎知識」で、一つひとつ詳しく解説していきます。

参考引用

COPDの予後;日内会誌104, 1115〜1121

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